職務と業務
昭和45年8月20日の最高裁判例を根拠として、“代表取締役以外の取締役が取締役会決議を経ずに株主総会を招集した場合、その株主総会決議は不存在事由がある”という問題を見ました。
この判決の理由の一部を記載します。
「株主総会の招集は、原則として、代表取締役が取締役会の決議に基づいて行なわなければならないものであるところ、前記総会が被上告会社の代表取締役以外の取締役であるEによって招集されたものであることは前述のとおりであり、しかも、前記認定の事実によれば、右総会は取締役会の決議を経ることなしに同取締役の専断によって招集されたものと推認される。してみれば、右総会は招集権限のない者により招集されたものであつて、法律上の意義における株主総会ということはできず、そこで決議がなされたとしても、株主総会の決議があつたものと解することはできない。したがつて、右決議の無効確認を求める上告人の本訴請求は理由があるというべきであり、論旨は理由がある。原判決は破棄を免れない。」
この判決は、株主総会を招集することができるのは、代表取締役であり、代表取締役以外の取締役は、招集することができないことを前提にしています。
さて、現行の会社法のもとではいかがでしょうか。
会社法299条1項は、「株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の・・・」と規定していて、招集者を代表取締役に限定していません。
会社の内部的意思決定機関である株主総会を招集することは、業務の執行ではなく、取締役の職務の範囲ということになります。
旧商法では、業務と職務の区別があいまいで、“監査役は原則として業務執行監査権を有する”、という表現も使われていました(もちろん、会社法では「職務の執行を監査する」ですね(会社法381条1項))。
会社法は、取締役の「業務」と「職務」をちゃんと区別しているのです。
株主総会の招集が、業務の執行でないことは、指名委員会等設置会社においては業務を執行するのは執行役であるところ(会社法418条)、執行役は株主総会の招集者でないことからもわかります。
以前にも書きました、「収取と取得」「監査と監督」そして「職務と業務」、なかなか面倒ですが、その違いには注意する必要がありますね。
講義の準備

講義において、判例や先例が使われるときは、判決文や先例に目を通しておきます。要旨ではなく、判決文であれば理由の全文を、回答であれば、問い合わせ内容も読んでおきます。えっと、正直に申しますと、毎回全部というわけではありませんが(資料がなかったり、ほぼ完全に覚えているものもあります)。
何度も読んでいるものばかりですが、それでも新しく気づく事もあったりで、勉強はきりがありません。
この判決の理由の一部を記載します。
「株主総会の招集は、原則として、代表取締役が取締役会の決議に基づいて行なわなければならないものであるところ、前記総会が被上告会社の代表取締役以外の取締役であるEによって招集されたものであることは前述のとおりであり、しかも、前記認定の事実によれば、右総会は取締役会の決議を経ることなしに同取締役の専断によって招集されたものと推認される。してみれば、右総会は招集権限のない者により招集されたものであつて、法律上の意義における株主総会ということはできず、そこで決議がなされたとしても、株主総会の決議があつたものと解することはできない。したがつて、右決議の無効確認を求める上告人の本訴請求は理由があるというべきであり、論旨は理由がある。原判決は破棄を免れない。」
この判決は、株主総会を招集することができるのは、代表取締役であり、代表取締役以外の取締役は、招集することができないことを前提にしています。
さて、現行の会社法のもとではいかがでしょうか。
会社法299条1項は、「株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の・・・」と規定していて、招集者を代表取締役に限定していません。
会社の内部的意思決定機関である株主総会を招集することは、業務の執行ではなく、取締役の職務の範囲ということになります。
旧商法では、業務と職務の区別があいまいで、“監査役は原則として業務執行監査権を有する”、という表現も使われていました(もちろん、会社法では「職務の執行を監査する」ですね(会社法381条1項))。
会社法は、取締役の「業務」と「職務」をちゃんと区別しているのです。
株主総会の招集が、業務の執行でないことは、指名委員会等設置会社においては業務を執行するのは執行役であるところ(会社法418条)、執行役は株主総会の招集者でないことからもわかります。
以前にも書きました、「収取と取得」「監査と監督」そして「職務と業務」、なかなか面倒ですが、その違いには注意する必要がありますね。
講義の準備

講義において、判例や先例が使われるときは、判決文や先例に目を通しておきます。要旨ではなく、判決文であれば理由の全文を、回答であれば、問い合わせ内容も読んでおきます。えっと、正直に申しますと、毎回全部というわけではありませんが(資料がなかったり、ほぼ完全に覚えているものもあります)。
何度も読んでいるものばかりですが、それでも新しく気づく事もあったりで、勉強はきりがありません。

対話
みなさま、明けましておめでとうございます。
本年も、少しでも役に立つ、あるいは楽しんで頂けるようお届けして参りたいと思いますので、宜しくお願い申し上げます。

年末年始の恒例として、過去問のチェックをしています。
もちろん、ほとんどはもう覚えてしまっているのですが、受験生の方から「たしかこんな過去問があったのですが…。」という質問を受けることが良くあり、多少あいまいな質問でも、どの過去問なのか少しでも特定できるように、備えておきたいのです。
平成14年の民法の問題です。
次の対話は、条件と期限に関する学生AとBの対話である。( )部分に挿入する語句を下記語群の中から選択して対話を完成させた場合、一度も使用されない語句の組み合わせとして最も適切なものは、後期1から5のうちどれか。ただし、一つの語句を複数回使用してもよい。
学生A: 条件と期限とは、どこが違うの。例えば、事業が軌道に乗ったら返すという約束で、XがYから無償で住宅を提供してもらったときは、どう考えればいいの。
(“以下の対話”省略)
語群:確定期限 不確定期限 解除条件 停止条件 使用貸借 贈与
事業の成功が確定した 事業の失敗が確定した
1 確定期限 停止条件 事業の失敗が確定した
2 不確定期限 停止条件 贈与 事業の成功が確定した
3 不確定期限 解除条件 事業の成功が確定した
4 確定期限 解除条件 使用貸借 事業の失敗が確定した
5 確定期限 解除条件 事業の成功が確定した
“以下の対話”がなくても答えられますよ。
最初の学生Aの質問から、いわゆる出世払いの問題だとわかります。すなわち、「事業が軌道にのったら」を、解除条件と解するか、不確定期限と解するかが当然論点となります。
そうすると、以下の対話の( )には、かならず「解除条件」と「不確定期限」は入らなくてはなりません。
したがって、そのどちらも入っていない“1”が正解となるはずです。
出題形式に少し変化を加えた問題は、かえって容易に正解が見えてしまうものです。
受験生の皆さんには合格を、そして、すべてのご覧いただいている皆さんにとって、良い一年であることをお祈りしております。
本年も、少しでも役に立つ、あるいは楽しんで頂けるようお届けして参りたいと思いますので、宜しくお願い申し上げます。

年末年始の恒例として、過去問のチェックをしています。
もちろん、ほとんどはもう覚えてしまっているのですが、受験生の方から「たしかこんな過去問があったのですが…。」という質問を受けることが良くあり、多少あいまいな質問でも、どの過去問なのか少しでも特定できるように、備えておきたいのです。
平成14年の民法の問題です。
次の対話は、条件と期限に関する学生AとBの対話である。( )部分に挿入する語句を下記語群の中から選択して対話を完成させた場合、一度も使用されない語句の組み合わせとして最も適切なものは、後期1から5のうちどれか。ただし、一つの語句を複数回使用してもよい。
学生A: 条件と期限とは、どこが違うの。例えば、事業が軌道に乗ったら返すという約束で、XがYから無償で住宅を提供してもらったときは、どう考えればいいの。
(“以下の対話”省略)
語群:確定期限 不確定期限 解除条件 停止条件 使用貸借 贈与
事業の成功が確定した 事業の失敗が確定した
1 確定期限 停止条件 事業の失敗が確定した
2 不確定期限 停止条件 贈与 事業の成功が確定した
3 不確定期限 解除条件 事業の成功が確定した
4 確定期限 解除条件 使用貸借 事業の失敗が確定した
5 確定期限 解除条件 事業の成功が確定した
“以下の対話”がなくても答えられますよ。
最初の学生Aの質問から、いわゆる出世払いの問題だとわかります。すなわち、「事業が軌道にのったら」を、解除条件と解するか、不確定期限と解するかが当然論点となります。
そうすると、以下の対話の( )には、かならず「解除条件」と「不確定期限」は入らなくてはなりません。
したがって、そのどちらも入っていない“1”が正解となるはずです。
出題形式に少し変化を加えた問題は、かえって容易に正解が見えてしまうものです。
受験生の皆さんには合格を、そして、すべてのご覧いただいている皆さんにとって、良い一年であることをお祈りしております。

混同抹消
問 混同を原因とする権利に関する登記の抹消を申請する場合において、混同によって当該権利が消滅したことが登記記録上明らかであるときには、登記原因証明情報の提供は不要であると考えますが、いかかでしょうか。 (登研生)
答 御意見のとおりと考えます。
登記研究690号の質疑応答7810です。
さて、本当に“御意見のとおり”でよいのでしょうか。
不登法61条
権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。
ご案内のとおり、現行の不動産登記法は、権利に関する登記の申請においては、登記原因証明情報の提供を必須としており、提供を要しないのは「法令に別段の定め」がある場合に限られます。
不動産登記令7条3項に、登記識別情報を要しない場合の別段の定めが規定されていて、それは次の通りです。
① 敷地権付区分建物の法74条2項申請以外の、所有権保存登記(1号)
② 「仮処分による失効」を原因とする、仮処分に後れる登記の抹消(2,3,4号)
私は、現行不動産登記法において、登記原因証明情報の提供を必須とすることには賛成していませんでした(たとえば、「買戻期間満了」による買戻権抹消の登記の申請において、登記原因証明情報を提供させる必要がそれほどあるのか。)。
ですから、「混同」抹消の申請において登記原因証明情報の提供を要しないとしてくれるのであれば大歓迎です。
しかし、現在の不動産登記法や令の規定からすれば、せめて通達や回答があればともかく、質疑応答だけを根拠として、「混同を原因とする権利に関する登記の抹消を申請する場合には登記原因証明情報の提供は不要である。」と言い切ってしまうのは、ちょっと危険であると思うのです。

今年の中庭の照明の色は、去年に比べてシンプルです。

ここに来る前に、元町のいつものお店でネクタイを買いました。
皆様、今年もブログにお付き合いいただきましてありがとうございました。
お身体にお気をつけて、どうぞよいお年をお迎えください。
答 御意見のとおりと考えます。
登記研究690号の質疑応答7810です。
さて、本当に“御意見のとおり”でよいのでしょうか。
不登法61条
権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。
ご案内のとおり、現行の不動産登記法は、権利に関する登記の申請においては、登記原因証明情報の提供を必須としており、提供を要しないのは「法令に別段の定め」がある場合に限られます。
不動産登記令7条3項に、登記識別情報を要しない場合の別段の定めが規定されていて、それは次の通りです。
① 敷地権付区分建物の法74条2項申請以外の、所有権保存登記(1号)
② 「仮処分による失効」を原因とする、仮処分に後れる登記の抹消(2,3,4号)
私は、現行不動産登記法において、登記原因証明情報の提供を必須とすることには賛成していませんでした(たとえば、「買戻期間満了」による買戻権抹消の登記の申請において、登記原因証明情報を提供させる必要がそれほどあるのか。)。
ですから、「混同」抹消の申請において登記原因証明情報の提供を要しないとしてくれるのであれば大歓迎です。
しかし、現在の不動産登記法や令の規定からすれば、せめて通達や回答があればともかく、質疑応答だけを根拠として、「混同を原因とする権利に関する登記の抹消を申請する場合には登記原因証明情報の提供は不要である。」と言い切ってしまうのは、ちょっと危険であると思うのです。

今年の中庭の照明の色は、去年に比べてシンプルです。

ここに来る前に、元町のいつものお店でネクタイを買いました。
皆様、今年もブログにお付き合いいただきましてありがとうございました。
お身体にお気をつけて、どうぞよいお年をお迎えください。

鉄

Anything is possible
アイアンマンのモットーです。
少し傲慢な感じがするかもしれません。
たしかに、海で3800メートル泳ぎ(実際は流されるのでもっと長く)、180キロバイクを漕ぎ、42.195キロ走り終えゴールしたときには、思わずそう叫びたくなります。
でも、普段の練習や、レースに参加したときに感じることは、“できないこと”ばかりだということです。
でも、そう感じるのは挑戦しているからで、Anything is possibleの精神をもって頑張ればよいのです。
これをご覧いただいている方々も、不合格により悔しい思いをしたり、思うように勉強が進まなかったりして、苦しい思いをしているかも知れません。
でも、それは司法書士試験に挑んでいるからであり、その思いは貴重なものなのです。
“必ず合格”の気持ちをもって頑張って下さい。
Ironmanは、日本語ではそのまま「鉄人」です。
ところでただの鉄ではなく、少しの炭素を加えて鍛えた合金があります。
刃金とか鋼、それから「鋼鉄」などと言います。
英語では、steel(スチール)ですね。
えっと・・、もしよろしければ二つ前のブログ(特に写真)をご覧になってみて下さい。

更迭
不動産が信託され、所有権移転及び信託の登記がされている場合において、単独の受託者が変わった場合には、所有権移転の登記をしますが、この登記の登記原因は次の通りですね(登記記録例528)。
「平成30年11月16日受託者変更」
原因日付は、受託者の辞任による任務終了の場合を除き、“新受託者は、前受託者の任務が終了した時に、その時に存する信託に関する権利義務を承継したものとみなす。”(信託法75条1項)ので、前受託者の任務終了の日になります。
登記原因は、今は「受託者変更」ですが、現在の登記記録例により廃止された登記記載例(昭53・3・31民三2112通達、502)では「更迭」となっていました。
一週間ほど前の新聞の記事です。
見出しに「司法長官を更迭」
本文で、「トランプ大統領が、セッションズ司法長官を更迭した。」
“更迭”は、ある地位や職にある人をかえること、また、かわることを意味するので、見出しはいいのですが、本文の、誰々を更迭したというのは、誤った使い方になります。
どうも最近“更迭”を、解任のような意味でつかっているようですが、“更”も“迭“もともに、その字義は「かえる」「かわる」であり、任を解くという意味はないのですから、更迭を解任のように用いることはできません。
さらに記事を読んでみると、あらたな司法長官を選任しておらず、長官代行に補佐官を充てたとのこと。
見出しの更迭は、用法としては正しいのですが、内容としては誤っていることになります。
新聞の記事は、正しい文書で用語の使い方も正しいと子供のころは思っていましたが、お粗末なものです。
あっ、「こうてつ」ですよ(「こうそう」と読んだ学生がいたので、念のため)。
「何に乗っているの?」

「スチールの玉。」
「平成30年11月16日受託者変更」
原因日付は、受託者の辞任による任務終了の場合を除き、“新受託者は、前受託者の任務が終了した時に、その時に存する信託に関する権利義務を承継したものとみなす。”(信託法75条1項)ので、前受託者の任務終了の日になります。
登記原因は、今は「受託者変更」ですが、現在の登記記録例により廃止された登記記載例(昭53・3・31民三2112通達、502)では「更迭」となっていました。
一週間ほど前の新聞の記事です。
見出しに「司法長官を更迭」
本文で、「トランプ大統領が、セッションズ司法長官を更迭した。」
“更迭”は、ある地位や職にある人をかえること、また、かわることを意味するので、見出しはいいのですが、本文の、誰々を更迭したというのは、誤った使い方になります。
どうも最近“更迭”を、解任のような意味でつかっているようですが、“更”も“迭“もともに、その字義は「かえる」「かわる」であり、任を解くという意味はないのですから、更迭を解任のように用いることはできません。
さらに記事を読んでみると、あらたな司法長官を選任しておらず、長官代行に補佐官を充てたとのこと。
見出しの更迭は、用法としては正しいのですが、内容としては誤っていることになります。
新聞の記事は、正しい文書で用語の使い方も正しいと子供のころは思っていましたが、お粗末なものです。
あっ、「こうてつ」ですよ(「こうそう」と読んだ学生がいたので、念のため)。
「何に乗っているの?」

「スチールの玉。」
